東京高等裁判所 昭和29年(う)205号 判決
被告人 小林勘寿
〔抄 録〕
しかして原判決の挙示した証拠によれば、原判決認定の事実はこれを認めるに十分である。なるほど被告人及び原審証人小林久子の原審公判廷における各供述記載に徴すれば、判示日時被告人方に鈴木健夫、岡崎勇、鈴木勝一の三名が来たが、その際名刺五十枚位と五百円札一枚を被告人方縁側において帰つたため、被告人はそれを下駄箱に入れておいたが、妹の久子がそれを発見したのでその後箪笥に入れかえて蔵い、返そうと思いつつ岡崎の所在がわからなかつたのでそのままにしてしまつたと述べていることは明らかであるが、鈴木健夫及び被告人の検察官に対する供述調書の各記載によれば、鈴木健夫外二名から判示のような選挙運動を依頼せられ、その際鈴木健夫が岡崎の手を経て志村候補者の名刺と共に百円札五枚を差し出したので、被告人はいわゆる選挙の買収費としてくれるものと思いそれを受取るのをことわつたが、三名はそれを縁側においたまま立ち帰つてしまつたこと、被告人はその金員を下駄箱に入れておいたがその一部を使い、残りは自己の金と一緒にしてしまつたことを認め得るから、被告人は鈴木健夫等から前記金員を直接手渡しされたのではないといい得るも、判示のような趣旨の下に与えられた金員であることを知りながら、これを下駄箱等に蔵い入れ、しかもその一部を費消し残りを自己の金と一緒にした以上、仮え後に返還する意思があつたとしても、該金員を取得したものであつて、即ち供与を受けたものと言わなければならない。右認定に反する原審証人鈴木健夫の証言及び被告人の供述は前記証拠に対比して措信し難い。よつて原判決が判示事実を認定したのは相当であつて、何ら事実誤認の誤りはない。論旨はすべて理由がない。